1. 長期気候変動と森林植物の分布と環境要因
過去の気候変動と森林 過去の気候変動はどのように現在の森林分布に影響を与えているのか。
コメツガ
・本州以南の亜高山帯を代表する常緑針葉樹
・日本固有種
・岩塊地に多いが、地域によっては優占林を形成
・北限 青森県八甲田山~南限 愛媛県石鎚山
・適した気候条件 … 冷涼 雪が少ない 夏の降水量が多い
・第四期以前には北海道にも生息していた。
将来の気候変動と森林 地球の気温は130年で0.85℃上昇 ➠ 2100年までに最大4.8℃上昇すると推定される。
地球温暖化は森林にどのように影響するのか?
2. 年によって変動する樹木の種子生産年による種子生産の変動
花芽数が変動する「きっかけ」の探索 ▪ 月単位、2~3か月単位で解析
○長期間を必要とする変数では有効。
×花芽形成に重要でない期間を過大評価する可能性。
×花芽形成への関与が逆である期間を両方とも含む可能性。
▪ 暦日を使用
○結果を簡潔に記述しやすい。
×生物季節が温度条件のみで決定される場合、重要でない期間を過大評価する可能性。
トドマツの花芽数の変動 開花の前年に雌花芽ができる。
全く開花しない年がある。
開花した年の秋に球果が成熟。
広葉樹やマツ属の樹種に比べ、雌花、球果の死亡・落下が少ない。
種子が飛散すると球果の軸のみが残る。
花芽形成の促進要因に関連する研究例
・花芽形成期を含む可能性のある時期が高温、高日照。
・花芽形成期よりも早い時期が低温、高日照、少雨。
・花芽形成期前年夏の生育期間が低温。
中山峠トドマツ林冠木10個体における、雌花芽生産の年次間変動
・明瞭な豊凶の存在。
・一部の個体では観測年の多くで痕跡を確認。
結果:開葉に近い2週間程度の期間に有効積算温度が前年よりも高いと、雌花芽ができやすい。
○2生育期間の温度差が有効。
○花芽形成に関わる生物季節は温度条件のみが重要(暦日を反映しない)。
温度差を感受するメカニズムは不明。
重要なデータ
・豊作、凶作がそれぞれ3回以上含まれる観測
・現地の気象データ
3. 台風撹乱 -CO2収支からみた撹乱の影響と回復過程-森林における撹乱
森林生態系のCO2収支
羊ヶ丘落葉広葉樹林の台風撹乱 2004年9月の18号台風による被害 → CO
2放出源 → いつ放出源から吸収源に戻るか?
4月、10~11月はササによる光合成が活発。
皆伐・植林事例との比較
羊ヶ丘の森林
風倒後、そのまま未処理の羊ヶ丘実験林では10年経過後もCO
2放出源のまま。
・ササはCO
2吸収に大きな役割
・枯死木を放置すると、CO
2放出が長期間継続
4. 洞爺丸台風風倒被害60年後の森林再生
-長期モニタリングの意義と成果-洞爺丸台風と風倒被害 1954年9月26~27日 台風15号
北海道史上最大の台風被害
中心気圧956hpa、最大風速35m以上、最大瞬間風速50m以上
北海道の森林面積の約14%(2600万m
3)に被害 = 当時の年間伐採量の3.4年分
大雪山系における長期モニタリング成果
調査結果
(1)三股風害跡試験地
北海道風害森林総合調査時に設定、1960年に再設定。
面積20.18ha、調査区50m×100m。
林分材積87%の風倒被害 → 上昇 → 2014年調査で停滞。
立木本数36%の風倒被害 → 1990年まで上昇 → 以降減少。
風倒木はそのまま存置している。
風倒前に比べ、広葉樹の混交割合が増加。
(倒木根元のマウンド上にシラカンバ、バッコヤナギなどが更新)
針葉樹ではトドマツの材積割合はアカエゾマツより大きい。
(前生樹としてトドマツが多かったこと、成長速度の違いが影響)
被害後60年で林分材積は風倒前を大きく超えている。
立木本数が近年減少傾向にあり、立木間の競争によって枯死が多くなっている。
林分としては二次林から成熟林に移行しつつあると見られる。
(2)石狩川源流森林 原生保護林
第三次石狩川源流森林総合調査時に設定。
調査区50m×100m。
洞爺丸台風の被害を免れた天然林。
林分材積は600m
3/ha前後で推移。
(成長量と枯死量が釣り合っている状態)
立木本数はやや減少。
(進界木と枯死木の本数がほぼ同じ)
(3)石狩川源流森林 植生調査試験地
1952~53年に設定、1957年に再設定。
調査区10m×30~50m。
風倒木は搬出されている。
調査区によって回復傾向に違いがある。
広葉樹の混交割合が高い。
(4)石狩川源流森林 人工林固定調査区(八方台)
第三次石狩川源流森林総合調査時に設定。
調査区20m×25m。
風倒木搬出 → ウダイカンバ植栽 → 不成績 → ダケカンバ、トドマツ、ストローブマツに改植
→ 不成績 → グイマツ、アカエゾマツを補植
人工植栽木ではなく、天然更新によって広葉樹が更新。
(倒木の集材搬出跡や造林作業が更新を促進)
補植したアカエゾマツが成長し、材積・本数が増加。
(広葉樹上木の保護効果)
まとめ 風倒被害60年後の森林はいまだ再生途上にある。

森林長期モニタリングの意義
・森林の動きや機能の評価は短期間では解明できない。
・人工林収穫試験地では90年代に入り、温暖化対策の貴重なデータとして再評価されている。
個人レベルではなく組織的に対応する必要がある。
✡森林生態系多様性基礎調査
✡モニタリングサイト1000
✡国有林・道有林などの施業試験地
✡広域森林モニタリング
5. 水源林造成事業について -未来につなぐ水源の森林づくり- 公益的機能の発揮、生物多様性の保全、地球温暖化の防止 ← 多様で健全な森林の整備・保全
日本の森林・林業の再生 ←「緑の社会資本」としての森林の整備・保全、木材利用の推進

水源林の様々な役割
▪ 良質で豊かな水を供給 … 30億t/年を貯水
▪ 地球温暖化の防止 … 260万t/年のCO
2を吸収
▪ 災害を防ぎ環境を守る … 9000万m
3/年の土砂流出を防止
平成24年度の全国水源林造成地における効果額 = 約8700億円
6. 景観に配慮した複層林誘導伐 かなやま湖
北海道有数の湛水面積・貯水量を誇る。
カラマツ・トドマツなどの森林に囲まれる。
イトウをはじめ多くの魚類が生息している。
昭和29年洞爺丸台風 → 公益的機能の悪化
→ 昭和36年南富良野町と旧森林開発公団が分収造林契約→ 昭和36~41年に植栽
→ 現在、良質な水の供給に貢献
複層林施業 … 永続的に常時3層で構成される複層林へ誘導するために帯状の複層林誘導伐を行う。
通常の複層林誘導伐 … 斜面に対して垂直方向に伐採エリアを設定。
かなやま湖での複層林誘導伐 … 斜面に対して水平方向に伐採エリアを設定。
← 景観や自然災害防止に配慮
7. 北海道の材木育種事業 成長・材質の優れた木(精英樹)、病虫獣害・気象害に強い木を選抜
→ 特性の解析
→ 遺伝的に優れた種苗を創出
→ 森林機能の高度な発揮
北海道育種場
►北方系樹種の新品種の開発
►開発原種の増殖・配布
►有用広葉樹・針葉樹・希少樹種・巨樹・名木の材木遺伝資源の収集・保存
林業再生に資する品種の開発
(1)材質の優れたトドマツ品種の開発
・トドマツの水喰い材は凍裂の発生や乾燥コストが増大するなど、材の利用を妨げる原因の1つと
なっている。
・材価の高い建築用構造材としての利用を念頭に、ヤング率や心材含水率を立木状態で非破壊的
に測定し、剛性が高く水喰い材ではない材質の優れた品種の開発を進めている。
(2)トドマツ、カラマツ第二世代精英樹の選抜
・精英樹同士の人工交配家系の個体群の中から成長、材質がさらに優れた個体の選抜を進めて
いる。
・原産地の信州地域からカラマツを導入することにより、遺伝的多様性の拡大に取り組んでいる。
・次代検定林での定期的な成長調査を行っている。
(3)木質バイオマス生産に適したヤナギ品種の開発
・オノエヤナギ、エゾノキヌヤナギを対象に、木質バイオマス生産に適した品種の開発を進めてい
る。
・材積成績に優れ、材の容積密度とセルロース含有率の高い品種を選抜する。
育種の高速化に向けた基盤技術の開発
(1)着花促進技術の開発
・着花促進技術が確立していない北方針葉樹(カラマツ、グイマツ、トドマツ、アカエゾマツ)を対象
に、豊凶の周期、着花に影響を及ぼす環境要因、環状剥皮、植物ホルモン処理、花成遺伝子の発
現の観点から開発を進めている。
(2)コンテナポットによる育苗技術の開発
・コンテナポット苗(プラグ苗)は植栽後の初期成長に優れ、植栽時期を選ばない等の利点から注
目されている。
・苗畑での着苗期間が長く、コストの高い北方針葉樹の着苗期間の短縮を目指す。
(3)トウヒ属の種間雑種の創出
・初期成長に優れたヨーロッパトウヒと荒廃地への環境適応性に優れたアカエゾマツの人工交配に
より両種の特性を兼ね備えたハイブリッドトウヒの創出を進めている。